被相続人の生前に相続放棄をすることはできるか

　被相続人の生前に、相続放棄をすることはできません。

　中には、「事前に『相続放棄します』と一筆もらっています」とおっしゃる方が相談に来られますが、そのような文書は法的な効力を持つものではありません。

　相続放棄は、被相続人が亡くなってから行う手続きですので、亡くなる前にはできません。

　場合によっては、推定相続人のうち特定の人には財産を相続してほしくないと思われることもあるかと思います。

　その際、生前の相続放棄を、と考えるのかもしれませんが、上記のように生前の相続放棄はできません。

　そこで、少しでも、特定の人に財産を相続させないための方策はないのでしょうか。

⑴　遺言書を作成する

　被相続人としては、遺言書を作成し、財産の受取人や配分を指定することが考えられます。

　ただし、相続人には、遺留分が認められています。

　そのため、遺留分の範囲に限定されるとはいえ、被相続人が財産取得を望まなかった方にも財産取得がなされることとなりうる点には注意が必要です。

⑵　遺留分の放棄

　そこで、遺言書を作成することに加え、遺留分を放棄してもらうことが考えられます。

　遺留分の放棄は、生前であっても可能です。

　ただし、遺留分の放棄は、裁判所の許可が必要です。

　そして、許可を得るためには、遺留分を放棄する合理的な理由が存することが必要となります。

⑶　廃除

　財産を相続してほしくない推定相続人を相続人から廃除するという方法があります。

　つまり、相続人ではないことにする手続きを行う、ということです。

　廃除の手続きは、被相続人の生前に行うことができます。

　しかし、廃除が認められるためには、被相続人が遺留分を有する相続人から虐待や重大な侮辱、著しい非行があることなどが必要です。

　そのような理由がある場合に認められる手続きですので、認められるケースは少ないように思います。

　例えば、親に借金があり、その借金を背負いたくないがために、できれば生前に相続放棄をしたいと考える方もいらっしゃるかと思います。

　このような場合、たとえ親に「子に借金を相続させません」と遺言書を作成してもらったとしても、債権者に対しては効力を持ちません。

　よって、生前に相続放棄することはできず、相続が発生した後に相続放棄するしかありません。

　ただし、必要書類の確認や債務の状況の調査など、相続放棄のために生前から準備できることがあります。

　将来の相続放棄をお考えの方は、弁護士にご相談ください。